「目、つぶっててね。シャンプー入っちゃうから」
バスタブから私だけが出て、敦賀さんの頭にシャワーをかけた。
手に取ったシャンプーを柔らかな髪に乗せてからゆっくり泡立てると
泡の帽子をかぶったみたいにもこもこになる。
うふふ。人の髪を洗ってあげるのって楽しい。
だけど、調子よく泡をもこもこにさせてるところで、ふといつも自分の髪から香る匂いに気付く。
やだ…間違えちゃった。
「あっ…ごめんなさい敦賀さんっ、これ私のシャンプー…」
「ん…あぁ、いいよ大丈夫」
敦賀さんはあんまり気にしてないみたいだけど、すっごく甘い香りがバスルーム中に拡がってる。
洗いなおそうかな…なんか敦賀さんからこんな甘い匂いしたらおかしいもんね。
そう思って、敦賀さんが使ってるシャンプーを改めて取り出した。
「やっぱり洗いなおすね」
「いいから、これで続けて?」
「でも…」
「キョーコは嫌?」
「私じゃなくて敦賀さんが」
「俺と同じ香りじゃ、ダメ?」
私はいつも使ってるから嫌なんかじゃないけど、でも明らかに女の子用だもの。
そう思って尋ねてみた敦賀さんの答えになんだか少しドキドキしてしまった。
同じ香りって…そういう意味なの…。
もちろん、ダメじゃないけど、お風呂から出た後も同じ香りに包まれてることで、
一緒にお風呂に入ったことが、より鮮明に残る気がして。
「ううん、ダメじゃないけど…」
「じゃあ大丈夫。続けてくれる?」
「ん…」
バブルバスとシャンプーの香りでむせそうに甘いバスルーム。
なんとか敦賀さんの髪を洗ってあげたところで、敦賀さんがバスタブから出ようとしてる。
「や、待って…」
「今度は俺がしてあげる」
「わ、私のことはいいから…自分でできますから」
「そんなに恥ずかしがらなくても」
うろたえる私を制して、バスタブから上がった彼が私の身体を簡単につかまえる。
そのまま抱きとめられて、この先の予想がつかない私を置いて、こともなげに先を行こうとしてる。
っていうか…敦賀さん何しようとしてる…の…?
「ちょっと冷たいかもしれないけど、我慢して…」
そう言いながら取ったスポンジにボディーソープを含ませて。
「綺麗にしようね…」
バブルバスも、シャンプーもリンスもボディーソープも私が気に入って使ってる同じラインのもの。
香りが統一されてるから、こんなにいっぺんに使うと、すごく強くなってしまう。
甘くて美味しそうなフルーツとお花の香り…。
香りに酔っていると、首の後ろから背中にかけて上下に動いていたスポンジが
おなかのあたりに回されて。そこから脚の方へ下りていく。
2人で立っていたのに、いつの間にか敦賀さんが跪いて私の身体を丁寧に洗ってる。
泡だらけの自分の身体、敦賀さんが触れた部分が次第に熱を持ち始めて…
どうしよう…もしかして…
「すわってもい…?」
「ん…じゃあここに座って」
バスルームも暖房しているせいなのか、甘い香りに酔っちゃったせいなのかわからないけど
何だか頭がぼおっとして…立っていられなくなる。
「ひゃ…」
椅子に座らせてもらってからすぐ、スポンジじゃなくて敦賀さんの手が私に触れた。
後ろから白い泡を伸ばすようにして胸に…そのせいでぬるついたまま指先で尖りを転がされる。
不意打ちで、指が自由に滑る感触に思わず声をあげてしまう。
一緒にお風呂、って言われた時から、こうなるんじゃないかって…思ってたけど…
それで多分…触れられただけで身体が熱くて…もう…
「ぁん…や…っ…」
でもダメ…
敦賀さんはおかまいなしに手で包み込んだ私の胸をほぐしながら耳を噛むように舐めあげて。
抵抗しようかと思ったけど、もう身体に力が入らない。
というよりも…そんな私を裏切って身体が駆け出し始めてる。
胸に触れてた敦賀さんの手が片方、戯れに私を撫でながら下腹部に伸ばされて…。
「やっ…だめ…敦賀さんっ」
思わず伸びてきた手に、慌てて脚を閉じて腰を引こうとしたけど
敦賀さんの腕でぐっと押さえつけられてて逃げられない。
「ほんとに?」
「んっ…あぁ…ん…やだ…ぁ」
長い指が表面をなぞるように何度も往復する。
溝を撫でる動きが少しずつその奥へと進んでいって、ごく浅いところを確かめるようにされただけで
身体中の力が抜けていってしまう。
「ダメって言ってないみたいだけど…」
ほら、と、引き抜かれた指に透明な液体が絡んでいるのを私に見せた後、
自分の口に持っていって、耳元でそれを舐め取る微かな音。
ダメだって口では言ってても…
敦賀さんが私に火をつけようとしてる、そんなことでさえ、
もう私が自分をあふれさせてしまうのを煽るだけ。
「だ…って…ぁ…ぁん」
敦賀さんの指が再び降りていって、触れ合うそこがくちゅくちゅ、と音を立てる。
もう一度浅いところだけをゆっくりかき混ぜられて、
いつしか欲しくなってしまった私の身体が腰を揺らめかせ始める。
直接いろいろ触れられてたわけじゃない…ただ身体を洗ってもらってるうちに
こんなにも濡れてしまってた。もう…どうしてこんなにすぐに…。
「こんなとこで…ダメですって…ひゃ…はぁあんっ…」
否定の言葉もどこか、敦賀さんに先をねだってるみたいに響く。
して…もっとして…って…。
「すごくいい香りが…するよ…」
後ろからされるがままになってる私を振り向かせた後、
敦賀さんの唇が私のそれにそっと近づいてくる。
我慢できなくて、私の方から噛み付くように求めた。
柔らかい唇、優しく絡ませてくる舌…そこ、への愛撫は続けられたまま
お互いを食べてしまうくらいに求め合い、零れた唾液が口の端をつたい落ちる。
もうダメ。頭がどんどん真っ白になっていく…。
されてること、これからして欲しいと思ってしまうことに、思考が奪われていってしまう。
お風呂でする、なんて…でももう、欲しくて仕方ない。
「お…ふろでなんて…んっ…」
「…怖い?」
お互いの唇を解放した後。
敦賀さんが優しく私に囁く。
欲しい。
けど…お風呂でしたことなんてなくて…どうなっちゃうのか想像もつかない。
そうやってぐるぐる考えていても、少しずつ進んでいく行為。
表面をひっかくように撫でられたり、不意にぬるっと差し込まれた指で弄られたり
内側を煽る長い指が増やされながらゆっくりと
意思とは離れたところで、もう…もう止まらない…。
「大丈夫、ほら、つかまって…」
「は…ぁ…んん…っ…」
椅子に座っていた私を抱き上げて、敦賀さんが床に座り、
とめどない快感に揺らされて熟しきった身体、その入り口に
すでにゴムをかぶせられていた敦賀さんのそれが触れた。
自分の体重を支えられなくなった私が敦賀さんに縋るようにして腰を下ろしていくと
いつも大きくていっぱいいっぱいなはずなのに、さほど抵抗もなくそれを飲み込んでしまう。
何をするのかもわかってる。
どこまでもぐちゃぐちゃに溶かされて、準備もとっくにできてる。
何度も抱かれて慣らされた身体。
繋がるのに、無理なことなんて、もうない。
なのに…敦賀さんに押し入られるたびに、初めてみたいに…反応してる私がいるの…。
「綺麗だよ…」
繋がった場所に集中してしまってた私に向かってそう呟くと、敦賀さんが私の唇にキスをする。
触れ合って、どちらともなく開いた少しの隙間から溶けそうになるくらい舌を吸い合って
そのまま、唇を繋げて舌を絡めたまま敦賀さんが身体を動かし始めた。
「ん…っ…んん…ぅ…」
さっきまで、こんなことになるなんて思ってもみなかった。
ここがお風呂だとか、ベッドやソファに比べて少し不自由な体勢だとか
重なったところから起こる淫らな水の音や、2人の声や吐息がいつもよりも響いてて、
それが恥ずかしくて仕方ないだとか、
何も考えられなくなって、ただ私の中にいる敦賀さんの熱さに翻弄されてる。
私もう敦賀さんでいっぱい…あふれちゃうよ…
「やぁん…っ…あん…あ…っあっ、ぁん…っ」
じわじわと忍び寄る波に、声を抑えられなくなってしまう。
唇を離した後、受けきれない快楽を逃がすようにして懸命に喘ぐ私。
敦賀さんの切羽詰った様子を身体で感じて、お互いに回している腕にぎゅっと力を入れた。
ぴったりと重なった身体、その全てに押し寄せてくる気持ち良さ。
とんでもなく淫らなことをしているとわかっていて、抗えない。
身体が…心がそれを憶えてるから…。
その快感に手が届きそうになって、敦賀さんを見つめたその端から雫がこぼれていく。
それがどんな意味を持つ涙なのかも、わからない。
耐える彼の表情と吐息。あ…敦賀さんも気持ちいい…のね…?
そんな表情を見ることができた、その不思議な満足感に安堵したその時。
あ、ああ…っもう…敦賀さん…もう…っ…!
*
2人で登り詰めたあと。
お互いを緩めるように、バスタブに再び身体を預けた。
事後の身体の重たさも、お湯がゆっくりと受け止めてくれてとても気持ちいい。
はぁ…お風呂でしちゃっ…た…。
今日、初めて一緒にお風呂に入ったのに。
こんな明るい中で敦賀さんの裸を見るのも初めてだったのに…。
直視できないくらいの恥ずかしさも、まだ少しはあるけど、でももう…。
ゆらゆらと揺れる湯面。ぬるくてちょうどいいくらいの温度。
抱かれてる時のふわふわした、天とも地ともつかない感覚に良く似てる。
「大丈夫…?」
敦賀さんにつかまって目を閉じていると、不意に降りてくる優しい声。
きっと、そのあとには「ごめんね」がつくのよね…
ん、大丈夫。
そう答える代わりに私の身体をなでさする彼の手にそっとキスをした。
そして、もう一度、その唇をねだる。
今では簡単に手に入れられるけど、こうしてキスをするのは本当に、好き…。
何度でも。
今日は敦賀さんのお誕生日なのに、こうやって抱かれてしまうと
ただもう身を預けたくなる私がいる。
いつまでも触れていたくて、そこにいるって敦賀さんを確かめて…甘えたくなっちゃう。
いつものことしかしてないのに、敦賀さん、本当に良かったのかな…。
今度逢えたときには、ケーキでも焼こうかな…。
やっぱり何かプレゼントも、あげたい。
簡単に思いつかないことはもう、実証済みなんだけど、それでも。
身体と時間だけじゃなくて、一緒にお祝いした証を重ねていきたいの。
ね、敦賀さん、何がいい?今度、教えてね。
「私」以外でね?
2006/07/14 OUT