べたべた -KYOKO

From -LOVERS

珍しくも何ともない匂いのはずなのに、シチュエーションが違うだけで
こんなにドキドキするんだ。不思議。
封を切って湯船に入れた途端、お湯の温度もあいまって、甘い香りがふわっと広がる。
大きくかき混ぜて、お湯の色が白く変わるのを見届けてから、静かに湯船の中に入った。
身体の上で、お湯がちゃぷんと音を立てる。

少し前に食べたチョコレートの味がまだ口に残っていて、とても幸せな気分。
敦賀さんがくれたそのチョコレートを2人で食べて…正確には食べさせあって
さっきからずっと密かにドキドキしてるのはそのせいかも。
チョコレートの入浴剤の香りが、さっきのことをこれでもかというくらいに思い出させるから。
お湯が白いから、ホワイトチョコレート、って感じかな。

最近はもう、キス、とかそういう単語を聞いたり
お話の中でそういうシーンを読んだり、ドラマや映画でそういうシーンを見ると
必ず、敦賀さんのことを思い出す。
バレンタインが近くなれば、チョコレート、っていうだけで、一緒に過ごせるかな、とか
今年はどんなお菓子作ったらいいかな、って思う。
敦賀さんのお誕生日も近くだから余計に、敦賀さんのことを想う時間が長くなる。

普段でも、男の人の服を見れば敦賀さんのことを考えちゃうし、
自分の身の回りには敦賀さんからもらったものが結構あるし、
敦賀さんが占める割合がどんどん増えて行ってる。
このまま思い出を共有していくと、そのうちぴったりと重なるんじゃないかっていうくらいに。
現実的に考えればそれはないのだと、知っているのだけど。

だって、相手に触れた感触は、
そこに確かにその人が存在しているのだと教えてくれるのに十分すぎるもの。
そして、そうやって敦賀さんのことを確かめるのは、本当に、好き。
同じくらいの体温が伝わってきて、目を閉じたらまるで自分が彼の中に
流れ込んでいくようで、うっとりする。
その度に、溶け合ってひとつになれるような気がして、
そういう感覚を相手に触れるたびに何度も味わえるなら、
本当にひとつにはならずに2人別々でいることって、本当に素敵なことだと…思う。

「食べられそうなくらいだね」

目を閉じていたら、いつの間にか入ってきてた敦賀さんがそう呟く。
バスルームはチョコレートの甘い香りで満たされてる。
お風呂に一緒に入るのは死ぬほど恥ずかしいんだけど、たまーになら、こんなのもいいかな、なんて。
そうやって敦賀さんに言っちゃうと、回数が増えそうだから黙ってるんだけどね。

「ほんとに食べちゃ、だめですよ?」
「ん、さっき食べたからね」

さっき一緒に食べたのは、敦賀さんが買って来てくれたチョコレート。
口の中に入れた途端、すうっと消えてしまって、本当に美味しくて感激してたら
いきなりキスされて、さらにチョコを口移しされてびっくりした。
でも2人で食べるっていうこと自体が、
そのものの味以外にもいろんなものをもたらすみたいで、いつの間にか夢中になってた。
チョコがなくなってからも何度かキスを繰り返すうちに、そういう雰囲気になってきて、
慌てて、お風呂に入りませんか、って言っちゃったの。
一緒に入りましょう、という意味ではなかったのだけど、そんな意味にも取れるなあって
言ってしまってから考えてたら、敦賀さんが嬉しそうに、一緒に入っても良い?って。

さっきまでのことを反芻していたら、敦賀さんが私の身体に触れてるのに今頃気づいた。
絡められた指を何度か愛撫されて、それからゆっくりと抱きよせられる。
別に欲求不満とかいうわけじゃないのに、敦賀さんに触れられたり、
敦賀さんとキスしたりすると、なんとなくそんな気分になりやすいみたい。
もう…前はそんなことなかったのに、きっと敦賀さんのせいなんだわ。

「良い匂いがする」

首元に顔を寄せられて、思わず目を閉じた。
敦賀さんと、そういうことをしたいって思っても、おかしくないよね。
今は、拒める自信がない。
今までも…多分、拒んだことはないけれど。

敦賀さん、お風呂上がったら、私が作ったお菓子も少しでいいから食べてね。
あ、それからチョコと一緒にプレゼントしてもらったお花も、花瓶に生けなくちゃ。
ありがとう、敦賀さん。
言葉で言い表せないくらい…大好き。
チョコレートまみれのべたべたが、お菓子メーカーの策略に乗せられた行動だとしても、
やっぱり一緒に過ごせて、本当に嬉しい。
今日の一番は、あなたと一緒にいること。そして、ありったけの想いを伝えることだから。

「してもいい、かな」

……ん。


2009/02/22 OUT
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