自分のついたため息…のようなものが、満足からくるものなのか、
それともちょっぴり呆れてるからなのかは、多分はっきりは決められないんじゃないかと思う。
こういうときには必ずと言っていいほどあふれてる涙をぬぐうと、少し視界が開けてきた。
後ろからは、やっぱり同じように敦賀さんが普通の呼吸に混ぜて大きくため息をついてるのが聞こえてる。
彼のは…多分満足、なのかしら。
そうだといいのだけど。
ちょうど目の前にある敦賀さんの腕を自分のほうに引き寄せた。
それに応えるかのようにその腕が私と彼をぎゅっとくっつける。
といっても、くっつきの度合い、ということなら多分、さっきほどじゃあ、ないけれど。
柔らかく射す光の中でうとうととまどろんでいると、耳の後ろがくすぐったくなって
思わず身をよじった。
ときどきするのと同じように、敦賀さんが私の耳を噛んだり、顔を髪にうずめてみたり。
こうなると8割の確率でそういうことになるけど、今はそれはちょっとマズイ。
もー、さすがにもう一回って言われたって無理なんですからね?
そう言って抵抗しようとしたら、そうではないみたいだったから、されるがままになっておいた。
…だって敦賀さん、まだ午前中なのよ?
オフで時間を気にしなくてもいいからって、朝から何回もそんなことしてたら
明日のお仕事に…少なくとも私は響きます…っ…。
「内緒にしてたなんてひどいな…」
ひどいな、って言うわりには言葉が弾んでる。だから私も顔を緩ませちゃう。
うふふ。だってびっくりさせたいなって思ったんだもの。
お誕生日、一緒にいられないんだなあ…ってちょっと寂しかったところに
急にオフになって、しかもその次の日の仕事が敦賀さんのロケ先の近くになるなんて
私もかなりびっくりしたのよ?
だから、そのぶんの「びっくり」を、敦賀さんにも体験して欲しくて。
「びっくり」と、とびっきりの「嬉しい」と。
ねえ敦賀さん、今日一緒に過ごせて本当に、嬉しいな…。
「ん?」
ううん、ひとりごと。
敦賀さんの方を向いて笑ってみせると、ぱくっと鼻に噛み付かれちゃった。
それから、唇でほっぺたをすりすりされて、それが唇に合わさって、ちゅ…ちゅ、と、浅いキスを何度も繰り返す。
ああ、どうしよう。
こんなことしてたら、またさっきの熱がぶり返しちゃう。
「テレビでも、付けようか?」
ひとしきりキスを交わしてから、離れていった唇がそう呟く。
ん…テ、レビ…
ううん。
首を振って、敦賀さんにもういちどしがみつく。テレビは、まだいいかな。
それより、もっとあなたを見ていたい。肌に触れる感触をいつまでも味わっていたい。
ゆっくり一緒に過ごすの自体が久しぶりだから、テレビなんて見てたら、もったいないもの。
「…びっくりした?」
「うん、すごーく、ね」
「嬉しいな」
「ん、俺を驚かせたこと?」
それもだけど、こんな時でもちゃんと2人の時間が持てるっていうのが、嬉しくて。
本当は、ちょっとやりすぎかなって思ったの。
逢いたい、触れたい、特別な日だから一緒に過ごしたい、って、言わば…私個人の事情よね。
それを仕事にかこつけて、ちょこっとだけ予定をねじまげてまで追いかけてくるのって…どうなのかな、って。
だけど、やっぱり我慢できなかった。
誰かに直接迷惑をかけてるわけじゃない、って思ったら、止まらなかった。
お仕事を、お休みしたわけじゃないもの、ね。
もしそうであれば、我慢しただろう。仕事と敦賀さんとは、比べることができない、同系列にはないもの。
これからも私はきっと、こういう風に隙間を縫って時間を作ろうとする。ちょっと無理なこともするかもしれない。
そうまでしてでも逢いたい…大切な人を心に住まわせているのが悪いことだとは、思わないから。
それに、芸能人たるもの、それくらいこなせて当たり前、よね。
うふふ…ふふふ…
敦賀さんの言葉に答えを返さないでそのまま見つめていると、
一瞬だけ不思議そうな顔をした後、同じように微笑んでくれた。
明るい光が敦賀さんの睫毛をかすめていく。
日が落ちて随分経ってから抱き合うのとはまるで違う空気。
敦賀さんのお部屋ともまるで違う景色。
でも、触れている部分の熱だけは確かに同じ。
そう…こういう感じ、なの。
2人きり、私だけが敦賀さんのほぼすべてを独占してる。身体も、時間も、心も。
抱き合っているうちに敦賀さんに流れ込んでいきそうになる、私の身体と時間と心。
本当はそうはならなくて自分の中だけで完結しているのだけれど、
同じことが敦賀さんの身体でも起きているならきっと、
それはひとつに溶け合えたのと同じことなのかもしれない、と思いながら、
私は敦賀さんをもう一度受け入れるために、目を閉じた。
2009/06/05 OUT