見てる。
今日は久しぶりにのんびりできる時間が持てて
俺の部屋で2人きり。
昨夜遅くやってきた彼女と、
空気すらも入る隙間がないくらいくっついて過ごして
もう今は日も傾きつつある、午後。
ああ、もうオフも終わりか…。
それでも明日の仕事の台本に少し目を通して見ていると、
さっきまで遅い昼食の片付けをしていた彼女が俺の隣に腰を下ろした。
そして、柔らかく日が差す室内で、俺の方を見つめる、恋人。
テレビもつけなくて、音楽も流れていない、静かに風が空気を揺らす中で
時間だけが少しずつ刻まれていく。
もうすぐまた忙しい日常に戻って、いつまたこんな風に穏やかに過ごせる時間がくるだろう。
2人きりでいて、台本なんか読んだって頭に入るわけなんかないんだけど。
こうしていれば、彼女は俺の隣に来てくれるだろうと思って。
ねえ、キョーコ、放っとかれて寂しい?
…違う。寂しいのは俺のほうだよ。
同じ部屋にいても、別々のことをしてる間が寂しく思えて、
だから、隣に彼女が来たのを気付かない振りで、彼女から触れてくれるのを、待ってる。
だけど、これ以上我慢できなくて。
「…キョーコ。そんなに見てて飽きない?」
君は、見てるだけじゃ、物足りなくない?
台本を閉じて、隣の恋人に手を伸ばした。
「飽きないですよ?」
微笑みながらそう言う彼女の方に身体を向ける。
少しだけ寄りかかるように近づくその身体を引き寄せながら。
「そう…俺は飽きた」
せっかく2人きりで、誰の邪魔も入らないのに別々なことをしてるなんて、もったいないだろう?
「台本にですか?」
今日の俺は、「敦賀蓮」にはなりきれないな…。
台本に集中できないどころか、君の気を惹きたくて必死すぎる。
「可愛い恋人が横にいるのに、台本読んでるなんてバカみたいだな、って」
「きゃ…」
「1人で台本見てるより、こうしてたほうがいい」
そう、ここには君と俺しかいないんだから、もっと君とくっついてたい。
普段出来ないぶん、こうして…。
身体を抱き上げて、膝の上に乗せる。
至近距離で向き合ってしばらくすると、彼女が俺の方に手を伸ばしてくる。
それを掴まえて指先にそっと口づけた。
やっと、触れてくれた。
「まだ明るいけど…誰も見てないから…しようか?」
「だだだ、だめですよっ…」
顔を赤くして焦る彼女の視線を追いかけて目を合わせる。
少しだけ潤み始める瞳にどうしようもなく欲情してしまう。
やがてどちらともなく、互いに吸い寄せられるようにして唇を重ねた。
柔らかく応えてくれるその甘い唇と舌に酔って…やがて零れ出す吐息と2人分の唾液。
もっと欲しくて、舌を誘うように絡ませる。
ゆっくりと開かれる、その扉。
「…ん…ふ…っ…」
鼻にかかる甘く震える息。
もっと、聞かせて…。
「…敦賀さん…おひさまが見てますよ…?」
濡れた唇が離れると同時に、彼女が額を寄せながら囁く。
…だから、だよ。
明るいところで、綺麗な君が見てみたい。
普段見えないようなところも、俺に見せてくれる?
「見せてあげよう?こーんなにラブラブですよ、って」
2人きりの秘密も、たまには誰かに暴露してみたくなる。
キョーコは俺のものなんだって、本当は世界中に触れて回りたい。
大丈夫。おひさまは、口が堅そうだから平気だよ。
「なっ…」
俺の言葉にますます頬を染めて絶句してしまう。
そんな顔、したってダメ。
タイムリミットまで離さないよ。
「それともカーテン、閉め切って、したほうがいい?」
「よくないですっ…」
逃れようと暴れる身体をぎゅっと抱きとめる。
昨夜、逃がさない、って言ったよね?
朝まで逃がさないよ、ってつもりだったけど、やっぱり気が変わった。
俺のそばにいるときはもう、逃がしてあげない。
ずっとずっと、くっついていよう?
君も、本当に逃げようなんて、思ってない。
だから…。
もう一度、お互いを求め合い、つかのま離れた瞬間。
絡む視線を外し、節目がちに告げられたその言葉。
「もう…そんなに見ないで…恥ずかしいよ…」
「さっきのお返し」
頬を染めて恥らう君も、俺を求める君も、可愛く啼く君も。
微笑む君も、涙を流す君も。
…全部俺だけに見せて。
2005/12/03 OUT