昼下がりの -KYOKO

From -LOVERS

黒い髪が、光に透けて少しだけ茶色がかって見える。
わずかに開けられた窓から吹き込んでくる風に揺られて、さらさらとなびく。
整った顔。意志の強そうな瞳。

横顔を見てるだけでも…ドキドキする。
敦賀さんは私の隣で、台本のチェック中。
私は…そんな彼を眺めていた。

ページを手繰る指先。
長くて…少しだけゴツゴツしてて、やっぱり男の人の手。
大きな手で、その長い指で…いろんなことされるのも好き。
手をつないだり、指を絡ませあったり。

ふいに、集中していた彼がため息をひとつ、ついた。
薄く開けられた唇から零れた空気が、
2人にしかわからない秘密の時間を思わせるように甘くて
…身体が少しだけ強く鼓動を打った。
穏やかな時間と…すぐ触れられる距離に、涙ぐんでしまう。

幸せだ。今、とても。

「…キョーコ。そんなに見てて飽きない?」

やがて敦賀さんが、凝視し続ける私に呆れたように台本をぱたりと閉じた。

「飽きないですよ?」
「そう…俺は飽きた」

台本をテーブルに置くと、そう言って私のほうに身体を向ける。

「台本にですか?」
「可愛い恋人が横にいるのに、台本読んでるなんてバカみたいだな、って」
「きゃ…」
「1人で台本見てるより、こうしてたほうがいい」

瞬く間に彼の膝に乗せられて、至近距離で向かい合う。
彼の髪に宿る光の粒子に誘われて、そっと手を伸ばした。
途端に手首をつかまれて、指先に…キス。

「まだ明るいけど…誰も見てないから…しようか?」
「だだだ、だめですよっ…」

言葉とはうらはらに、一瞬絡んだ視線が合図のように唇を求め合う。
あんな近くで…あんな瞳で見つめられたら。

触れて、輪郭をなぞるようにそっと押し付け合い、
少しずつ溢れ出す唾液をはさんで、
滑らせながら愛撫し合った、その後に、
身体への入り口を通す為に開かれる唇。

「…ん……ふぅ…っ」

どちらともなく零れる声と吐息。
絡めた舌が擦れて、それを合図のようにしてやってくる…何か。
深く求め合う音に、身体が憶えてるそれを、ゆっくりと呼び起こされて。

「…敦賀さん…おひさまが見てますよ…?」

ちゅ…と音を立てて離れた唇を見送りながら囁く。

「見せてあげよう?こーんなにラブラブですよ、って」
「なっ…」
「それとも、カーテン閉め切って、したほうがいい?」
「よくないですから…っ」

逃れようとしてみたけど、腕に抱きとめられて身動きが取れない。
敦賀さんが艶やかに微笑む。

ん…。
ほんとはダメなんて思ってないこと、バレてる。
どこまでもとらわれて。
逃げられない、甘い甘い罠。
もちろん、逃げる気も…ないけれど、ね。



2005/08/30 OUT
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